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歩いてわかること 〜香具山と藤原京〜

春過ぎて 夏来るらし 白たへの 衣干したり 天の香具山
  (持統天皇 巻一の二八)

  数年前、藤原宮跡を訪ねたときの話。ある女子学生が、「えっ、香具山って、こんなに低いの!」と声を上げたことがあった。横にいた留学生も、「アンビリ−バブル……」と嘆息。

 まさか「天下の香具山」がこんなに低い山だとは思っていなかったようである。なるほど大和三山のなかでも、いちばん低く見えるのが香具山。少なくとも、周りの山々よりは高い山であろうと、声を上げた二人は想像していたらしい。はるかヨーロッパで、Man-yoshuを読んで大和の風景にあこがれていた青年が、思わず声を上げてしまったのも、無理からぬ話と言えよう。

 しかも、『万葉集』で「天の」という修辞句が冠せられているのは、かの天の香具山だけなのである。だから、声を上げた二人は、本文をしっかり読んでいた優等生である、と言えよう。

 さすれば、なぜ「天の香具山」なのか?実は、『万葉集』には、「天降りつく 天の香具山」(鴨君足人 巻三の二五七)という表現がある。「天降りつく」とは、天から降ってきた山ということであり、万葉の時代には、香具山は天から降ってきた山であるという伝説が存在していたのである。『伊予国風土記』逸文には、

 伊与の郡。郡家ゆ東北のかたに天山あり。天山と名くる由は倭に天の香具山あり。天ゆ天降りし時二に分かれて、片端は倭の国に天降りき。片端はこの土に天降りき。因りて天山と謂ふ、本なり。
とある。

 つまり、香具山は天界と地上世界を結ぶ宇宙樹であり、天地を結ぶシンボルであった、と言えるであろう。だから、天から降ってきた山、それが「天の香具山」なのである。たとえ、低い丘のような山であっても。

 やはり、歩かないと、わからないことがあるのですね。

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