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猪と母親の監視

山間地の開発が進み、里に出てきて農作物を食い荒らす獣が最近多くなっている、という。猿や猪、鹿はたまた熊が、「害獣」として田畑に出没することが多くなってきたのである。山間地の田圃には、猪よけの囲いを作ることが、現在でも行なわれている。いよいよ収穫の時になって、稲を食い荒らされたのでは、たつてがないからだ。

  しかし、もっとも有効な手立ては、見張り番の小屋を置くことである。これが『万葉集』でいう「田屋(たや)」「田廬(たぶせ)」である。それらの建物は、見張りのために建てられる仮設の建物である。もちろん、農機具を一時的に保管したり、農繁期の賄いをしたりといった機能もあったことだろう。収穫期には、この小屋に泊まって見張りをし、収穫が終われば、撤去したようである。とくに、獣の出やすい山間地にある「山田」では、厳重な見張りが行なわれていたようである。

  ところで、『万葉集』には、こんな娘心を歌った歌がある。やや品位に欠けると、読者にお叱りを受けることを覚悟しつつ上野流に訳すと、次のようになる。もし、筆者が高校生向けの教科書を編集するなら、この歌を入れるだろう。

  フィーリングがあったら、その 男(こ)とは寝てもいいと私は思 ってるんだけど・・・、山田のな かでも鹿や猪がやってくる田圃を 見張るように、お母さんは私を見 張っている(だから、自由に恋も できないのよ、私の家は!)。

 心合へば相寝(ぬ)るものを
  小山田の鹿猪田(ししだ)守(も )るごと 母し守(も)らすも   
  (巻十二の三〇〇〇)

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